大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京家庭裁判所 昭和38年(家)10413号 審判

申立人 大山重行(仮名)

事件本人 小原公子(仮名)

主文

事件本人小原公子の親権者を申立人と指定する。

理由

一、本申立の要旨

申立人は、○○衣料工業株式会社の代表取締役で、妻とみとの間に一男二女の三児があるが、夫婦仲が円満でないため、妻とは別居の上離婚について協議中であるところ、昭和二九年以後事件本人の母小原民子と事実上の婚姻関係を続け、同人との間に照子(昭和三六年一月一一日生)および事件本人公子(昭和三八年八月三一日生)の二児をもうけ、同児らの出生以来申立人において監護養育している。ところで、照子については、昭和三六年六月一〇日認知の上、同日親権者を申立人と指定する旨届出たが、事件本人については、出産直後母民子が死亡したため、申立人は事件本人を昭和三八年九月二八日認知したが、事件本人の親権者を申立人にする協議をすることが出来ないので、申立人を親権者に指定されたい旨、本申立に及んだというのである。

二、当裁判所の判断

(1)  本申立の原因事実については、申立人提出にかかる関係戸籍謄本と申立人審間の結果その他本件記録一切を総合すれば、明らかであり、かつ申立人が監護養育者として適当であることも認められる。

(2)  ところで、本件は、嫡出でない子の母が死亡し、未だ後見人が選任せられていない間に、父がその子を認知した上自己を子の親権者に指定するため母と協議ができないとの理由で、民法第八一九条第四項、第五項による協議に代わる審判の申立をしているのであるが、この場合には、親権者である母が死亡して親権を行使する者がないのであるから、民法第八三八条第一号により後見が開始するとするのが通例であつて、本件のように母が死亡して協議の余地がない場合にもなお協議ができないものとして民法第八一九条第四項、第五項による親権者指定ができるかどうかは問題である。

しかしながら、民法の規定する親権あるいは後見の制度は、民族の風俗慣習を照合しつつ、子の福祉を目的とする以上、親権者は誰であるとか、如何なる場合に親権者変更や指定の申立が許されるか等は、単純に民法各本条の文理解釈に止まることなく、各場合について妥当なる判断を下すべきである。

そうだとすれば、民法第八一九条第四項、第五項にいう協議不能が、協議という以上対立する当事者の存在を前提とすることは勿論であるが、この存在は協議不能の場合にも常に存在を必要とすると狭く解釈する理由はあるまい。問題は、かかる場合に、父を親権者とすることが、果して、子の福祉のためによいかどうであつて、協議当事者の対立存在ではない。若し父が親権者として不適当であれば、本件の場合は親権者指定は許容せず後見開始となるだけである。

そもそも、民法が、子に実父母がある限り、親権の喪失・辞退等特殊な場合を除いて、原則として婚姻の有無によつてその共同もしくは何れか一方を親権者とする建前をとつているのは、それが子の監護教育・財産管理に最も自然の情に適い、事の性質にも合しているからであり、従つて民法が親権と後見を別箇のものとする以上、父が親権者として子を監護養育したいというのは、親子の情愛であつて、法律上も敢て後見に付さねばならぬとする理由がないことは前述のとおりである。本件の場合のように、父が子を引き取つて監護養育している場合は、父を親権者とする方が、より父の子に対する愛情を深め責任感を高めて、ひいては子の福祉に資するものであろう。

よつて本件申立は理由があるから、主文のとおり審判する。

(家事審判官 吉村弘義)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例